大切な愛猫が慢性腎臓病と診断されたとき、日々のケアに加えて、旅行や出張の際に「ペットホテルに預けても大丈夫だろうか」と不安を感じる飼い主様は少なくありません。
慢性腎臓病は高齢の猫によく見られる病気で、定期的な投薬や皮下点滴など、継続的な治療が必要となります。環境の変化に敏感な猫にとって、ペットホテルでの滞在は大きなストレスとなり得るため、特に持病を抱えている場合は慎重な判断が求められます。
本記事では、猫の慢性腎臓病の基礎知識から、ペットホテルに預ける際に確認すべきポイント、そして持病のある猫でも安心して預けられるペットホテルの選び方まで、獣医師の浅川雅清が詳しく解説します。
愛猫の健康を守りながら、安心して預けられる環境を見つけるための参考にしていただければ幸いです。
目次
猫の慢性腎臓病の基礎知識


ここでは、慢性腎不全の基礎について解説します。
猫の慢性腎不全とは?
腎臓とは、血液をろ過して、尿を作るとともに血液中の老廃物を体外へ排出する臓器です。左右一対存在し、一度ダメージを受けると再生しにくい臓器と言われています。
その腎臓の機能が低下した状態を「腎不全」と呼びます。高齢の猫によく遭遇する疾患で、最近では「慢性腎臓病」と呼ぶのが主流です。
猫の慢性腎臓病とは、現在のところ以下の条件を満たすものを指すとされています。
- 少なくとも3か月間存在する腎臓へのダメージ
- 少なくとも3か月間存在する糸球体ろ過量(GFR:腎臓がどれくらい血液をろ過できるかを示す数値)の低下
対して、短期間の腎臓へのダメージを「急性腎障害」と呼び、区別されています。
現在、動物の慢性腎臓病においては、IRIS(International Renal Interest Society)からステージ分類と、ステージごとの治療がガイドラインとして提唱され、そちらに沿った治療をしていくことが多いです。
表1 猫のIRISのステージ分類
| ステージ1 | ステージ2 | ステージ3 | ステージ4 | ||
| クレアチニン(mg/dL) | <1.6 | 1.6~2.8 | 2.9~5.0 | >5.0 | |
| SDMA(μg/dL) | <18 | 18~25 | 26~38 | >38 | |
| UPC比 | 非蛋白尿<0.2 境界的な蛋白尿0.2~0.4 蛋白尿>0.4 | ||||
| 収縮期血圧(mmHg) | 正常血圧<140 前高血圧140~159 高血圧160~179 重度の高血圧≧180 | ||||
猫の慢性腎臓病の原因とは?
猫の慢性腎臓病の原因は多岐にわたり、以下のようなものが挙げられます。
- 尿路の感染症や腎盂腎炎
- 腎毒性物質(ニューキノロン系抗生剤、NSAIDs、エチレングリコール、ユリなど)
- 急性腎障害の完解後
- 全身性高血圧
- 尿石症
- 蛋白尿
- 腫瘍(腎芽腫、リンパ腫など)
- 免疫介在性
- 加齢
- 先天性腎疾患(奇形)
猫の慢性腎臓病の症状とは?
慢性腎臓病の症状は、病気の進行具合により異なります。
- ステージ初期
初期の段階では、ほとんど症状が見られないことも多く、健康診断や血液検査で偶然見つかるケースも少なくありません。
多飲多尿(よく水を飲み、尿の量が増える)や体重減少が少し認められる程度であることも多く、飼い主様が気づかないことも珍しくありません。
- ステージ中期
腎臓のダメージが進むと、典型的な症状が認められるようになります。
食欲不振や嘔吐、下痢、体重減少などが主な症状となります。
- ステージ末期
腎臓の機能が大きく失われ、体内に老廃物が蓄積し「尿毒症」と呼ばれる状態になります。
上記の症状がより顕著になることに加え、口臭(尿毒症臭)や痙攣、貧血(エリスロポエチンの分泌低下が原因)なども現れます。
この段階では体調が急激に悪化することもあるため、早めの受診と集中的な治療が不可欠です。
猫の慢性腎臓病の診断とは?
慢性腎臓病の検査は、その原因の追究も含め全身的な検査が必要になります。血液検査や尿検査、腹部のレントゲン検査や超音波検査、血圧測定などを行います。
血液検査では、BUNやクレアチニン(Cre)、リン(IP)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、シスタチンC、SDMAなどを測定します。
尿検査では尿比重、超音波検査やレントゲン検査では腫瘍や結石などの確認を行います。
猫の慢性腎臓病の治療と予後とは?

IRISのステージ分類ごとに推奨される治療は以下になります。
ステージ1
- 腎毒性のある薬剤(ニューキノロン系抗生剤、NSAIDsなど)の中止または慎重な投与
- 腎前性(脱水など)、腎後性(結石など)の異常に対処・治療する
- 新鮮な水を常に飲めるようにする
- CreやSDMAの定期的なモニター
- 原因と併発疾患の特定と治療
- 高血圧がある場合はその治療
- 蛋白尿がある場合はその治療
- リンを<6mg/dLに維持
- 必要に応じ、腎臓療法食やリン吸着剤の使用
ここで重要なのは、前述の通り併発疾患や高血圧、蛋白尿などの、腎臓の数値以外の状態を把握することです。
高血圧がある場合や蛋白尿がある場合は、投薬で治療を行う必要があります。
ステージ2
- ステージ1の治療の継続
- 腎臓病用の療法食
ステージ2に関しては、ステージ1と大きく変わりありませんが、食事に注意する必要があります。
腎臓病用の療法食は、概ねタンパク質が制限されており、リンなどのミネラルが調節されています。
また近年では、ベラプロストナトリウムを IRISステージ2~3の慢性腎臓病における腎機能低下の抑制及び臨床症状の改善
このステージになると、余命は平均1年から1.5年程度と言われています。
ステージ3
- ステージ2の治療の継続
- リンを<0mg/dlに維持
- 代謝性アシドーシスの治療
- 貧血の治療を検討
- 嘔吐、食欲不振、悪心への治療
- 経腸または皮下補液による水和状態の維持
- カルシトリオールによる治療を検討
このステージになると、薬による治療を検討する必要が出てきます。特に、脱水を予防するために、週に2回の皮下点滴をすることが多いと思われます。
また、腎臓の数値が高くなると、気持ち悪さから嘔吐が見られたり、食欲が無くなったりします。飲み薬で気持ち悪さを取ってあげることが重要です。
また、貧血が進行すると、腎臓に酸素が届かずさらに腎臓病が進行する可能性があります。定期的に貧血の数値を確認し、エリスロポエチンの注射を検討する必要があります。
リンが高値になる場合は、リン吸着剤のようなサプリメントを使用するのも良いでしょう。
ステージ3の余命は、約1年とされています。
ステージ4
- ステージ3の治療の継続
- リンを<0mg/dLに維持
- 栄養と水和のサポート、投薬の為の栄養チューブ設置の検討
ステージ4は、いわゆる末期の状態で、腎機能がほとんど損なわれている状態です。
点滴を皮下から静脈内へ変更したり、強制給餌を行ったりなど、ステージ3の治療を強化する必要があります。
ステージ4の余命は、約数ヶ月と言われております。
慢性腎臓病の猫をペットホテルに預ける際の注意点とは?

ここまでは、猫の慢性腎臓病について解説しました。持病がある猫でも、どうしてもペットホテルに預けないとならない時もありますよね。
そんな時、どのような点に注意したらよいか、慢性腎臓病の猫をペットホテルに預ける際の注意点を解説します。
1.預かり中もいつもの治療が継続可能か
上述の通り、慢性腎臓病の猫では、皮下点滴や内服薬、サプリメントなどで治療を行います。
病態により必要な治療が異なるため、ペットホテルで対応が可能か確認する必要があります。
2.ストレスがかからない環境かどうか
猫は環境変化のストレスに非常に敏感です。
ペットホテルに預けると、フードを食べない、水を飲まない、トイレをしない、といったトラブルはよくあります。
健康な猫ならまだしも、持病がある猫ではそのようなささいな変化で、ホテル中に病状が悪化する可能性があります。
3.緊急の対応ができるかどうか
慢性腎臓病の猫は、病態が進行しないと明らかな症状が出ないことも多々あります。
治療により安定していると思っていても、預かり中に体調が急変する可能性もあります。
ペットホテルに獣医師が常駐しているのか、動物病院と連携しているのかなどを確認する必要があります。
慢性腎臓病の猫にオススメのペットホテルとは?

猫が持病を抱えていると、「ペットホテルに預けても大丈夫かな?」と不安に思う飼い主様も多いと思われます。そんな時に安心して利用できるのが、猫専門ペットホテル「ねこべや」です。
「ねこべや」では、猫に特化した快適な環境と、慢性腎臓病をはじめとした持病を抱える猫にも対応できるサポート体制が整っています。
1. 猫専門だからこそ、静かで安心できる環境
犬がいないため、物音や鳴き声によるストレスが少ないです。
また、設備も猫に特化し、広々とした部屋でストレスを与えない空間づくりがなされています。
2. 獣医師が巡回し、治療を受けられる
定期的な皮下点滴や毎日の投薬、注射などの治療も、預かり中に獣医師に安心して任せることができます。
3. 個室管理で食事・投薬が徹底できる
全頭個室で、持参したいつものフードをそのまま与えてくれます。
また、食べ残しや食欲の変化を細かくチェックしてもらえる上に、投薬やサプリメントの対応も可能です。
4. 緊急時も安心のサポート体制
巡回の獣医師による体調管理のもと、体調の急変時は早期に対応することができます。
飼い主様ご指定のかかりつけ病院へ迅速に連携することができます。
5.飼い主へのきめ細かい報告
滞在中の食欲・排泄・体調を定期的に報告してもらえます。
また、リモートカメラで猫の様子がリアルタイムで共有され、安心です。
6. 長期の預かりも可能
持病がある猫だと、一般的なペットホテルや動物病院ではストレスの観点から短めの預かりが推奨されることが多いです。
ねこべやでは、ストレスに配慮しながら長期の預かりにも対応しています。
よくある質問|猫の慢性腎臓病と預け先選び編
慢性腎臓病はどんな症状から始まりますか?
初期には、多飲多尿、体重減少、食欲低下、毛並みの乱れなどが見られることがあります。進行すると吹吐、脱水、エネルギー低下などが見られるようになります。初期は見つけにくいため、たとえ無症状でも、シニア期に入ったら定期検査をしておくのが重要です。
早期発見のためにできることは?
7歳を超えたら年1回、シニア期に入ったら年2回の健康診断を受け、血液検査と尿検査を含めると早期発見につながります。ふだんから、飲水量や尿量の変化、体重の増減、トイレの状態を気にかけると、異常にそに気づきやすくなります。
慢性腎臓病と診断されたら、治療はどう進む?
進行を遅らせることが主体で、療法食、皆下点滩、薬、サプリメントなどを組み合わせて進めます。多くのケースでは月に1回ぐらいの通院と、自宅での療法食・点滩・投薬という生活になります。体重・食欲・飲水量・尿量は毎日記録しておくと、状態変化に気づきやすくなります。
食事で気をつけることは?
療法食(腕臓ケア用)を動物病院の指示にしたがって使うのが基本です。食べてくれない場合は、ウェットタイプ・香りを立てる・少量ずつといった工夫を獣医師と相談しましょう。水分補給も重要なので、水を飲める位置を複数作る、ウォーターファウンテンを試すなども有効です。
慢性腎臓病の猫を預けるとき、何に注意すべき?
投薬・皆下点滩に対応している、獣医療連携がある、体調を毎日モニタリングしてくれる、個室タイプでストレスを最小限にできる、の4点を満たす猫専用ペットホテルが安心です。事前にかかりつけ動物病院の連絡先・使用中の薬・療法食・点滩手順を詳しく共有しておくと、預け中もスムーズにケアしてもらえます。
まとめ:慢性腎臓病の愛猫を安心して預けるために

猫の慢性腎臓病は、高齢猫に多く見られる病気です。一度ダメージを受けた腎臓は再生が難しいため、継続的な治療とケアが欠かせません。ただし、IRISのステージ分類に基づいた適切な治療を続けることで、愛猫が快適に過ごせる時間を延ばすことができます。
旅行や出張などでやむを得ずペットホテルに預ける場合は、次の3つのポイントをしっかり確認しましょう。
- 普段の治療が続けられるか:いつもの投薬や皮下点滴に対応してもらえるか
- 猫がリラックスできる環境か:静かで落ち着ける空間が用意されているか
- 万が一の時に備えられるか:獣医師がいる、または病院と連携しているか
持病のある愛猫を預けるのは心配かもしれませんが、猫専門で獣医療サポートが充実したペットホテルなら、安心して任せることができます。
事前にしっかり確認して、愛猫に合った環境を選んであげてくださいね。
氏名:浅川 雅清
【経歴】
2016年、日本大学生物資源科学部獣医学科卒業。
同年4月から、東京都内のペットショップ併設の動物病院に勤務。
犬・猫・ウサギ・ハムスターの診療業務を行う傍ら、ペットショップの生体管理や動物病院の採用業務、自社製の犬猫用おやつやフードの開発などに携わる。
2023年~2024年、同動物病院にて分院長として勤務
2024年~、同動物病院にて勤務医として勤務しつつ、フリーランスとして独立
現在は診療業務の他、往診やオンラインでの獣医療相談、ペット用品の商品監修、記事作成、SNS監修など幅広い業務を行っている。