猫が好きでも、猫の気持ちをすべて理解できるわけではありません。猫トリマーを目指す中で、「性格の違う猫たち、一頭一頭に合った接し方ができるのかな 」と不安に感じる方もいるのではないでしょうか。
実際のサロンには、施術前に部屋を一周したい猫、決まった方向から触れてほしい猫、使い込んだタオルでなければ落ち着かない猫など、それぞれ譲れないマイルールを持った猫がやって来ます。
猫トリマーの仕事のおもしろさは、手順どおりに施術することだけではありません。目の前の猫を観察し、「この子はこうすると落ち着くんだ」と、その子だけのこだわりを発見していくことにもあります。
通う回数を重ねるうちに、初回は緊張で見えなかった個性が少しずつ表れるようになります。見つけたマイルールを覚えて施術へ生かすと、猫との距離が近づき、グルーミングも驚くほど進めやすくなることがあります。
この記事では、私たちのサロンに通う常連猫たちの、個性豊かなマイルールを5つ紹介します。あわせて、猫専門サロン2店舗、ホテルを含めて20店舗を運営する中で見えてきた、猫のこだわりを施術へ生かす工夫や、通い続ける中で築かれる信頼についてもお伝えします。
猫トリマーが見つけた常連猫のマイルール5選

グルーミングの基本手順は学べても、猫ごとの細かなルールまでは教科書に載っていません。
猫たちの中では、きっと何か理由がある、譲れない決まりごとです。人には解読できなくても、私たちは一頭ごとの「猫の憲法」として大切にしています。
ここでは、猫トリマーが施術を重ねる中で見つけた、常連猫のマイルールを次の5つに分けて紹介します。
- ルール①施術前にフロアを一周して挨拶する
- ルール②乾かすときは使い込んだ柔らかいタオルを選ぶ
- ルール③体へ触れるときは必ず左側から近づく
- ルール④施術が終わったらフロアを一周走る
- ルール⑤キャリーへ戻る前に担当者の肩へ乗る
順に見ていきましょう。
ルール①施術前にフロアを一周して挨拶する
ある常連猫には、キャリーから出たあと、施術を始める前にフロアを一周するというマイルールがあります。
窓の外を確認し、部屋の匂いを点検し、最後に担当スタッフの足へ一度すりっと挨拶。それから施術台へ向かうのが、いつもの流れです。
この儀式を急かして省略しようとすると、その日はなかなか機嫌が直りません。反対に、フロアを一周してもらえば、その後の施術には終始ご協力いただけます。
所要時間は約2分。この2分が、その後の1時間を買っているのです。人には理由が分からなくても、猫の儀式にはきっと意味があります。たぶん。
ルール②乾かすときは洗濯を重ねた柔らかいタオルを選ぶ
タオルの感触に、強いこだわりを持つ常連猫もいます。
その子が落ち着くのは、新品のふかふかしたタオルではなく、洗濯を重ねて、くたっと柔らかくなった清潔なタオルです。新品のタオルで包むと、明らかに「これじゃない」という顔で身をよじります。
そこで、使い込んだ柔らかいタオルへ替えると、その瞬間に落ち着きます。人にはわずかな感触の違いでも、その子にとっては譲れないポイントなのでしょう。
高級より、いつもの。猫の世界の価値基準は、人とは反対になることがあります。
ルール③体へ触れるときは必ず左側から近づく
左側から手を伸ばすと落ち着いて受け入れてくれるのに、右側から近づくと警戒する常連猫がいます。
触れる場所や力加減が同じでも、手を伸ばす方向が違うだけで反応が変わります。そのため、この子へ触れるときは、必ず左側から近づくのがマイルールです。
過去に右側で何かあったのか、見え方に違いがあるのか、本当の理由は分かりません。それでも、左側から近づけば落ち着いて施術を始められます。
ルール④施術が終わったらフロアを一周走る
シャンプーとブローが終わった瞬間、必ずフロアを一周、全力で走る常連猫がいます。
怖がって逃げているわけではありません。表情は明らかに晴れやかで、一周走り終えると、満足そうな様子でスタッフのもとへ戻ってきます。
私たちは、このひと走りを勝手に「ウイニングラン」と呼んでいます。ふわふわになった体へ風を当てたいのか、単純に「終わったー!」と喜んでいるのか、本当の理由は分かりません。
この子のカルテには、「仕上げ後、走ります(止めない)」と記録されています。担当者が変わってもウイニングランを止めず、満足して戻ってくるまで待つための、大切な引き継ぎ事項です。
ルール⑤キャリーへ戻る前に担当者の肩へ乗る
お返し前に、担当スタッフの肩へ一度乗ることをマイルールにしている常連猫もいます。
施術が終わるとスタッフの肩へ乗り、そこから数秒ほど周囲を見渡します。満足すると自分から降り、そのまますんなりキャリーへ入ります。
この工程を飛ばして、肩へ乗せずにキャリーへ入ってもらおうとすると抵抗します。ところが、いつものように一度肩へ乗ってもらえば、その後はとてもスムーズです。
この子にとっては、サロンを出る前に必要なチェックアウトの儀式なのでしょう。ホテルのフロントで会計を済ませるように、毎回きちんと同じ手順を守る律儀な猫です。
猫のマイルールを施術に生かす3つの工夫

猫ごとのマイルールを見つけても、一人の猫トリマーが覚えているだけでは、次の施術へ十分に生かせません。飼い主さまから得た情報と施術中の反応を整理し、担当者が変わっても同じ対応ができる形で残すことが大切です。
ここでは、猫のマイルールを施術に生かすための工夫を、次の3つに分けて解説します。
- 飼い主さまの情報と猫の反応から落ち着ける流れを見つける
- 理由が分からないこだわりも否定せず尊重する
- 猫ごとのマイルールをカルテに記録して共有する
それぞれ順に見ていきましょう。
飼い主さまの情報と猫の反応から落ち着ける流れを見つける
猫が落ち着ける施術の流れを見つけるには、サロンで見せる反応だけでなく、自宅での習慣や苦手なことも知っておく必要があります。
お預かりの際には、普段触られることを嫌がる場所や、落ち着きやすい接し方、いつも行っているケアなどを飼い主さまへ確認します。その情報を参考にしながら、施術中の表情や体の動きを観察します。
飼い主さまから聞いた内容と、猫トリマーが現場で見つけた反応を組み合わせることで、「この順番なら落ち着きやすい」「この接し方は避けたほうがよい」といった、その子に合う流れが少しずつ見えてきます。
猫へ一方的に手順を押しつけるのではなく、飼い主さまと猫の両方から教えてもらいながら施術を組み立てることが大切です。
理由が分からないこだわりも否定せず尊重する
猫のマイルールは、すべて理由を説明できるものではありません。なぜ右側から触られると警戒するのか、なぜ新品よりも使い込んだタオルを好むのか、猫に聞くことはできません。
大切なのは、理由が分からないからといって、その反応を気まぐれだと決めつけないことです。その子が落ち着ける方法が分かっているなら、人の都合で変えようとせず、施術へ取り入れます。
「理由は分からないけれど、確かにあるルール」を無理に解明しようとせず、まず尊重する。猫と向き合うコツは、案外この姿勢にあるのかもしれません。
猫ごとのマイルールをカルテに記録して共有する
見つけたマイルールは、担当した猫トリマーの記憶だけに残すのではなく、カルテへ具体的に記録します。
「左側から触る」「使い込んだ柔らかいタオルを使う」「仕上げ後はフロアを走るため止めない」など、次に担当する人が読んですぐ行動できる言葉で残すことが大切です。
カルテに「左側から」と一行書いてあるだけで、担当者が変わっても、その猫が受け入れやすい方法で施術を始められます。スタッフによって対応が変わることを防ぎ、これまでに築いてきた流れを次回も守れます。
カルテに書き足される一つひとつのマイルールは、その猫と向き合ってきた時間の記録です。情報を共有することで、サロン全体で一頭の猫を理解し、継続してその子に合った対応ができるようになります。
常連猫のマイルールは通い続ける中で築かれた信頼の形

猫のマイルールは、初めての施術ですぐに分かるとは限りません。サロンへ通う中で緊張が少しずつ和らぎ、その子らしい行動が見えるようになって初めて気づけるこだわりもあります。
ここでは、常連猫のマイルールが見えるようになるまでの変化を、次の2つに分けて解説します。
- 初めて来店した猫は緊張で普段の個性を見せにくい
- 来店を重ねて安心すると猫本来のこだわりが見えてくる
それぞれ順に見ていきましょう。
初めて来店した猫は緊張で普段の個性を見せにくい
初めてサロンへ来た猫の様子だけで、その子の性格やこだわりを判断することはできません。
慣れない場所では、キャリーの奥で動かなくなったり、周囲を警戒して普段の行動を見せなくなったりすることがあります。一見おとなしく見えても、落ち着いているのではなく、緊張で反応できない可能性もあります。
そのため、初回からマイルールを見つけようとするのではなく、まずはどのような接し方なら受け入れられるかを確かめます。最初の施術は、その子の性格を決める時間ではなく、猫トリマーが一頭の猫を知り始めるための時間です。
来店を重ねて安心すると猫本来のこだわりが見えてくる
初めて担当した猫と、すぐに距離を縮められなくても焦る必要はありません。2回、3回と通ううちに、猫はサロンの場所やスタッフ、施術の流れを少しずつ覚えていきます。
緊張が和らぐと、前回までは見せなかった行動や、その子らしいこだわりが少しずつ表れます。ある日突然、「この子には、こんなルールがあったんだ」と気づくこともあります。
常連猫のマイルールは、「ここでは自分を出しても大丈夫」と感じてくれた信頼の形です。一頭の猫と時間をかけて関係を築き、飼い主さまも知らなかった一面を発見できることは、猫トリマーだからこそ味わえる楽しさです。
ねこべやアカデミーで猫の個性を読み取る力を学ぶ

猫のマイルールを見つける力は、生まれつきの勘だけで決まるものではありません。実際の猫と向き合い、「今の反応にはどのような意味があるのか」を考える経験を重ねることで、少しずつ身につきます。
ねこべやアカデミーでは、グルーミングの手順を覚えるだけでなく、一頭ごとの違いに気づき、その猫に合った対応を考えられる猫トリマーを目指します。
ここでは、猫の個性を読み取るために学べる内容を、次の2つに分けて紹介します。
- 実際の猫に触れながら小さな反応の違いを観察する
- 猫ごとのこだわりを施術やカルテへ生かす方法を学ぶ
それぞれ順に見ていきましょう。
実際の猫に触れながら小さな反応の違いを観察する
猫の個性を読み取るには、写真や文章で反応の種類を覚えるだけでなく、実際の猫が見せる変化を自分の目で確かめる経験が必要です。
同じ場所へ触れても、体の力が抜ける猫もいれば、少し身を引く猫もいます。タオルの感触や手を伸ばす方向など、人には小さく思える違いが、猫の反応を変えることもあります。
ねこべやアカデミーでは、実際の猫に触れながら、触れる前とあとの表情や体の動きを観察します。現役トリマーと一緒に反応を振り返ることで、ただ「嫌がった」と捉えるのではなく、何を変えれば受け入れやすくなるのかを考える力を身につけます。
猫ごとのこだわりを施術やカルテへ生かす方法を学ぶ
施術中に見つけた猫の反応を次回へ生かすには、気づいたことを具体的に整理して残す必要があります。
ねこべやアカデミーでは、どの工程で、どこへ、どのように触れたときに反応が変わったのかを振り返ります。さらに、落ち着いて受け入れられた方法や、次回に配慮したいことを、担当者が読んで行動できる言葉でカルテへ残す方法を学びます。
観察した内容を施術の工夫と記録につなげることで、担当者が変わっても、その猫に合った対応を続けやすくなります。マイルールを一人の気づきで終わらせず、サロン全体で共有できる形にする力を身につけます。
まとめ|猫のマイルールを見つけるたび、猫トリマーの仕事はもっと面白くなる

施術前にフロアを一周する、使い込んだタオルを選ぶ、仕上がったら全力で走る。猫には一頭ごとに、人にはすぐ解読できないマイルールがあります。
理由が分からなくても、その子が落ち着ける方法を見つけて尊重すると、グルーミングは進めやすくなります。見つけたこだわりがカルテへ一つずつ書き足され、その猫だけの「憲法」ができていくのも、この仕事のおもしろさです。
初回には見えなかったマイルールが、通うたびに少しずつ表れることもあります。「この子には、こんなこだわりがあったんだ」と新しい一面を発見できた日は、猫との距離が少し近づいたようで、次に会うのがもっと楽しみになります。
ねこべやアカデミーでは、実際の猫に触れながら小さな反応の違いを観察し、見つけた個性を施術やカルテへ生かす方法を学べます。次にまだ誰も知らない猫のマイルールを見つけるのは、あなたかもしれません。
ブログでは伝えきれない現場の判断や、猫専門トリマーを目指す方に役立つ実践的な情報をねこべやアカデミー公式LINEで発信しています。
猫トリマーを目指している方や、猫専門サロンの開業を考えている方は、ぜひ登録してみてください。
